2020年5月7日木曜日

【感想】詠坂雄二『日入国常闇碑伝』(講談社ノベルス)

詠坂雄二『日入国常闇碑伝』(講談社ノベルス)を読んだ感想、のような紹介文です。


この作品は詠坂雄二の中でもマニアックな方です。文庫化もされていませんし今後もされるような気もしません。かと言って面白くないわけではありません。埋もれているのが不思議なくらいのめり込む一冊です。


『日入国常闇碑伝』(ひのいるくに とこやみひでん)は全5章仕立てで、戦乱の時代末期から平和な時代の架空の日本=日入国が舞台となります。突然日入国の約4割を飲み込んでしまった常闇という異界に魅せられた人物、取り払おうとする人物たちの話になります。

海外のワーニー・アンサーという作家が書いた小説を、日入国の新人作家が邦訳し、十数年後に新書で再出版したという設定で書かれています。こういう設定は、詠坂雄二の2作目の著書『遠海事件』にも通ずるところがあります。


史実と比較すると、本能寺の変以降、もしくは江戸中期~後期あたりの感じがします。
時代劇ものが好きな方には気に入っていただけるのではないかと思います。

以下は各章について触れます。
ネタばらしはありません。



「舶来鬼」

「百葉時代の最強の武将は誰か」ということで、黒元三十六(くろもと しく)という人物にスポットをあて、常闇発生直後のことについて書かれています。
RPGのラスボス戦のような感じです。

この章は雑誌掲載時は最終回の位置づけでしたが、5章すべての時系列の中で一番時代が古いものになり、書籍では第1話として配置されています。

最終話「英雄蠅」にも少し関係があります。

「事為得」

常闇を征伐しに行く話ですが、まぁひねくれていますがそこが読みどころです。詠坂雄二っぷりが遺憾なく発揮されていると思います。
守峰刀冶朗が初登場します。最終話まで主要な人物になります。

「炎吹刀」

守峰刀冶朗が常闇から炎吹刀を持ち帰って来たところからこの話の本編が始まります。

常闇にはびこる妖魔に絶大な効果を与える炎吹刀を確保するために、白堂闇佐が佐藤炎吹という人物を尋ねに行く話です。
雑誌版のみ詠坂雄二作品に出てくる佐藤姓の秘密が隠されています。また、『君待秋ラは透きとおる』に関連しているだろうという事柄もあります。そのあたりは下記リンクのブログに詳しく書いていますので併せてご覧ください。

「雨鉄炮」

日入国を統一目前だった神藤七宗が率いていた鉄炮隊、その残党らしき者、風雨の中でも鉄炮が打てる何者かが暴れているので退治してほしいと、闇佐のところに依頼がくる話です。雨鉄炮とはなにか、一番ミステリーっぽい章になるかと思います。

「英雄蠅」

常闇を払うための部隊、明暗隊が結成されるまでの前日譚のようになります。初代明暗隊隊長になる峰木光介が主人公になります。常闇で死去したはずの人物が暴れているので原因究明に赴くというものです。


その他、各章についてさらに突っ込んで知りたいかたは、『ネピアが尽きたなら』をご覧ください。

ご覧いただきありがとうございました。

続編、読みたいですね。

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