両目の角膜手術を受けることに 。
手術はK病院で行われ、すでに私は入院し、病室で主治医から手術の説明を受けている。
「今からですか?」と聞くと今からと言葉が返ってくる。続いて「〇〇の計らいで2057号室に入れるようにするから」
医師の言葉が終わるのとほぼ同時に、10人ほどのスタッフが私のダブルサイズのベッドを持ち上げる。私の目線がゆっくり上がっていき、止まると横へ動きはじめる。
階下へ向かうが階段ではなく、下りのスロープを一歩ずつ踏みしめ移動する。
手すりに手を伸ばして掴まろうとする私に、手を挟まないようにと看護師がストップをかける。中途半端に伸ばした右手が踊り場の空気を引っかく。
意識を手すりからベッドを担いでる人たちへ向けると、その中に会社の同僚のTが居る。目が合い、親指の腹を見せて口角を右だけ上げる。
ベッドが壁に当たったり落ちそうになったりすることなく、スロープを降りきり2階へ到着する。
取り巻きが数人に減り、横たわっていたベッドから小さいストレッチャーへ移される。
両脚を伸ばしてストレッチャーに座る学校で、足側には白衣を着た女性看護師が少し前屈みで涼しく押している。自然と向かい合いお互いの視線の高さが一緒になる。
長いリノリウムの廊下の途中で一人が操作を誤り、ストレッチャーの角を壁から少し出っぱっていた柱にぶつける。その反動で文字通り、私の体が背中から飛んでいく。
激しく床に身体を打ち付け、立ち上がった際にめまいがして壁に寄りかかる。
すり足で壁伝いに一歩、二歩と進む。
十字で交差する対角線上の扉まで行きたい。
手すりや掴まる物が何もない。
考えても仕方が無いと考えることを中断し、おそるおそる両手を離して右足を出すと案の定。
誰かに心配されたり迷惑をかけないように、そのまま四つん這いで手すりのところまで行き、ポーカーフェイスで起きあがる。
目的の扉に、トイレを示すWCの文字が表示されている。
その扉を中心にして、床にはいろいろな色の便所スリッパが10足以上散乱している。
マンモス病室と呼ばれるK病院なのに、こんなに乱雑なのかと訝しみながらその中のひとつに履き替える。
そのまま男性用小便器へ向かうと白い陶器に木の引き戸が付けられていた。その意味がまったく判らず、しばらく眉根をよせる。珍しいものを触るように人差し指と中指の先で右へ引く。指を離すと戸はするすると元へ戻り、便器は閉まる。
右を見ても左を見ても意見を求められるような人は誰もいない。
もう一度、さっきより自信をもって戸を引き、また離す。
「今どきの便器には戸があって片手で支えながら用を足すのか」
それぞれをそれぞれで支え、用を足す。
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